コロナにも? 自然素材石けんは合成洗剤の「1000倍のウイルス破壊力」 5/1(金) 11:01配信現代ビジネス https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200501-00072151-gendaibiz-sctch 新型コロナウイルス感染症から命を守る予防策として「石けん」による手洗いが推奨されているが、「石けんのウイルス破壊」には未解明の謎があった。 写真】アルコール成分ないものも…「除菌グッズ」本当に信用できる商品とは そこで、長年にわたりウイルス不活性化の解明に取り組んできたのが、広島大学大学院、北九州市立大学、シャボン玉石けん(北九州市)の研究者チームだ。そして2019年、大きな研究成果が発表された。 石けんの「洗浄力」は主成分の界面活性剤によるが、インフルエンザウイルスによる実験で、ハンドソープ製品の大半の主成分である合成系界面活性剤と比べ、自然素材無添加石けんの界面活性剤のインフルエンザウイルス破壊能力が、100〜1000倍も大きいことが明らかになった。そして、その攻撃力の差がウイルスに対する石けんの作用の常識を覆す事実がわかったというのだ。 前回に続き研究チームに取材した第2弾をお届けする。 コロナにも? 自然素材石けんは合成洗剤の「1000倍のウイルス破壊力」 米国の蛋白質構造データバンクが製作した動画「Fighting Coronavirus with Soap」の一部 界面活性剤が「効く」わかりやすい理由  石けんによる手洗い啓蒙の情報が増大している。  試みにGoogleで「corona virus hand soap」で検索したところ、1億5900万件がヒットした。「ニュース」では240万件、「動画」だけでも543万件にのぼる(いずれも2020年4月27日)。  Googleのことだから重複もあるだろうが、それでも1億5900万件には驚く。  ヒットしたウェブのいくつかを見たが、石けんの化学的な効果とはどのようなものか、石けんによる手洗いがなぜウイルスを除去、破壊するのかについて、わかりやすく説明しているものも多かった。  石けんはきわめてありふれた製品で日々使っているにもかかわらず、そのメカニズムを知る人は少ないからだろう。  石けんも洗剤も主成分は界面活性剤だ。これは水では落ちない脂汚れを除去する働きを持つ。  一方、インフルエンザウイルスもコロナウイルスも粒子の表面(エンベロープ=外殻)は、脂質二重膜で覆われている。つまり、これらのウイルスは1ミリの1万分の1という極微小の「脂くるみの玉」なのだ。  洗剤の界面活性剤は布に染み込んだ脂汚れを引き剥がすが、ウイルスの外殻も脂なので同じようにその脂を引き剥がす。これが、ウイルスがお陀仏となる理屈だ。  新型コロナウイルス感染症の拡大で、世界各国(アメリカが主だが)で、この人類の敵を知るための、精緻でわかりやすい動画が多く作られ公開されている。  この事態を乗り越えていくために最も大事なことは、不安に煽られることなく正しい科学知識を身につけることだからだ。石けんの動画も膨大に増えているゆえんだ。  このことを実感したのが、英語の動画「Fighting Coronavirus with Soap」(日本語字幕:石鹸でコロナウイルスと戦う)だった。米国の蛋白質構造データバンク(日本支所は大阪大学蛋白質研究所にある)が製作したもので数ヵ国語の字幕版が公開されている。  わずか2分の動画だが、無数のイモムシのような多数の界面活性剤の分子がウイルスの外殻の脂質二重膜に引き寄せられ、ピラニアの群れが獲物に食いつくようにウイルスの脂質周囲に集まってミセル(高分子の集合体)を作り、脂質を引き剥がすさまを描いている。 次ページは:「棘」を引き抜く --------------------------------------------------------------- 「棘」を引き抜く  この動画が描いている「石けん」の働きは、これまで「石けん=界面活性剤の常識」である脂肪を剥がす作用を、ウイルスの外殻(脂質層)に当てはめたものと思われる。  ところが、昔ながらの自然素材無添加石けんに含まれる界面活性剤は、インフルエンザウイルスの実験では、「石けん=界面活性剤の抗ウイルス作用の常識」を覆す働きをしていたのである。  広島大学大学院医系科学研究科(ウイルス学)教授、坂口剛正さん、北九州市立大学国際環境工学部教授の秋葉勇さん、そしてシャボン玉石けん研究開発部長の川原貴佳さんを中心とするチームは、自然素材無添加石けんの界面活性剤の抗ウイルス作用が、広く販売されている合成系ハンドソープの界面活性剤と比べ100〜1000倍も大きいことを明らかにした。  そこで、そのメカニズムの解明に取り組んだのである。  広島大学の坂口剛正さんはこう語っている。  坂口 ウイルスの外殻、エンベロープは脂質二重膜なので、当然、石けんで溶けます。  電子顕微鏡で見たところ、濃度が高い合成系界面活性剤ではウイルスはもとの形がわからないほどバラバラになっていました。これは、従来の知見通りです。  一方、自然素材無添加石けんの界面活性剤は、濃度が低くてもウイルスに穴をあけていました。それは、界面活性剤がウイルスの棘の部分、スパイクタンパクにとりつき、スパイクを引き抜いていることがうかがえました。驚くべき機能です。  断っておきたいが、濃度による効果に差はあるものの、合成系ハンドソープもインフルエンザウイルスを壊すことに変わりはない。だが、合成系と比べて自然系のほうが、壊し方がダントツに大きいのだ。 コロナにも? 自然素材石けんは合成洗剤の「1000倍のウイルス破壊力」 写真:現代ビジネス ノーベル賞候補からの教えを生かして  坂口 その壊し方の違いの解明に取り組んでくれたのが、共同研究者である北九州市立大学の秋葉勇さんとシャボン玉石けんの川原貴佳さんでした。  秋葉さんは高分子材料化学、界面活性剤に取り組んできた研究者で、北九州市立大学副学長でもあった國武豊喜さんの薫陶を受けてきた1人だ。  その師、國武豊喜さん(現・九州大学特別主幹教授)は、世界で初めて脂質二重膜の合成に成功。それは、人工的に細胞を作ることにつがなる偉業だった。  私も長年にわたり國武さんとは懇意にさせていただいてきた。  1997年には、國武さんと対談し「不可能とされた人工細胞膜を洗髪リンスで実現」という記事を書いているが(『文庫版 メタルカラーの時代8 役者揃いの北九州メタル都市』小学館に収載)、國武さんはその業績により毎年、必ずノーベル賞候補として名があがっている。  北九州市は石けんという界面活性剤製品のメーカー、シャボン玉石けんが立地していると同時に、界面活性剤の科学では世界のトップ水準の地なのである。  では、チームは界面活性剤とウイルスの相互作用をどう解きほぐしたのか。  坂口 秋葉さんらは、自然素材無添加石けんの界面活性剤、「オレイン酸カリウム(C18:1)」は、ウイルスと「静電的相互作用」していると結論づけています。  インフルエンザウイルスは、表面に突き出ている棘(スパイク)が正常細胞(肺胞細胞や気管支の細胞)に取りついて侵入(感染)します。そのスパイクは、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という2種のタンパクで構成されています。  これまでの研究で、インフルエンザウイルスの表面のHAタンパクは、プラスの電荷をもった部分があることがわかっていました。一方、オレイン酸カリウム(C18:1)の親水基はマイナスの電荷を持っています。  そのため、そのマイナスがウイルスのHAのプラスに引き寄せられ取りついているのでは、と、考えたんです。 次ページは:洗濯と同じことが起こり、さらに… --------------------------------------------------------------- 洗濯と同じことが起こり、さらに… 整理するとこうなる。 界面活性剤の細長い分子は、頭の部分が「親水基」、長い尾の部分が「疎水基」という2つのパートからなる。  「親水基」は水になじみやすく、「疎水基」は水をはじき油にとりつく。  脂がしみついた布を水に浸し界面活性剤(洗剤)を加えると、たくさんの界面活性剤の分子は、尾の「疎水基」部分が吸い付けられるように汚れである脂を取り囲み「ミセル」(分子の塊)を作る。  一方、界面活性剤の分子の頭は「親水基」なので、脂をはじき、水に強く引き寄せられる。  こうして脂を取り囲んだ「ミセル」は布から引き剥がされて水の中へと拡散する。 これが、脂汚れが洗剤できれいになる洗濯の原理だ。  ウイルスの表面でも洗濯と同じことが起こっている。先に紹介した動画、「Fighting Coronavirus with Soap」(石鹸でコロナウイルスと戦う)は、その説明だった。  だが、広島大学と北九州市のチームは、ウイルスに対しては洗濯とは異なる反応も起こっていることを見出した。  秋葉さんらは、界面活性剤がウイルスの細胞攻撃の武器である「棘(スパイク)」を構成するHAとNAという2種のタンパクをどう攻撃するのかを探った。  だが、そんなことを知る方法があるのだろうか。  坂口 これまでの研究で、界面活性剤の「親水基」は電気的な相互作用を起こすと「発熱」し、「疎水基」は脂と反応すると「吸熱」することがわかっていました。  頭が働くと熱くなり、尾が働けば冷える。  つまり、ウイルスに界面活性剤を加えて温度を測定し「発熱」していれば「親水基」が働いている。「吸熱」していれば「疎水基」が活発だとわかるわけです。  その熱はきわめて微小ですが、等温滴定型熱量測定器(ITC)で測定できます。  その測定結果は驚くべきもので、界面活性剤のウイルス不活性化メカニズムの新発見でした。 次ページは:「まったく別の凄まじい攻撃力」 ------------------------------------------------------------- 「まったく別の凄まじい攻撃力」 秋葉さんの研究結果を整理するとこうなる。  1)広く普及しているハンドソープの合成系界面活性剤(ラウレス硫酸ナトリウム、LES)では、尾の「疎水基」がウイルスの表面(脂質二重膜)にとりつくので、「吸熱反応を」起こしている。これは従来の常識を裏付ける。  2)自然素材無添加石けんの界面活性剤(オレイン酸カリウム、C18:1)もウイルスのエンベロープ(外殻)に取りつくが、「発熱反応」は合成系界面活性剤では見られない別の反応をうかがわせた。  3)それは何を意味しているのか……。  自然素材石けんの界面活性剤はスパイクタンパクの一つ、HAに取りついていた。  4)HAにとりつくのは、「疎水基」と「親水基」という化学的な反応ではなく、それよりもはるかに大きな力が働く電気的な相互作用(静電的相互作用)で説明できる。  5)それは、前回紹介した自然素材無添加石けんの界面活性剤のウイルス不活性化(破壊力)が、一般のハンドソープの合成系界面活性剤と比べて100〜1000倍も大きいという実験結果を裏付ける。  秋葉さんと共同研究したシャボン玉石けんの川原貴佳さんはこう語っていた。  川原 自然素材無添加石けんに含まれる界面活性剤が、「親水基と疎水基」の原理でウイルスのエンベロープを壊すだけでなく、まったく別の凄まじい攻撃力でウイルスの武器を引き抜くのだという研究成果には勇気づけられました。  川原 もちろんこの研究は新型コロナウイルスではなくインフルエンザウイルスに関してのことなので、新型コロナウイルスでも同じかどうかの確認研究は急がねばなりませんが、坂口先生もおっしゃっているように、新型コロナウイルスでも同じ効果が期待できると考えています。 コロナにも? 自然素材石けんは合成洗剤の「1000倍のウイルス破壊力」 手荒れ調査のまとめ 手が荒れやすい人はどうすればいい?  ところで、新型コロナウイルスの感染を防ぐためには頻繁な手洗いが必須だが、とりわけ医療従事者はその回数が多くなっているはずだ。  界面活性剤はウイルスや病原菌を洗い流してくれるが、一方で洗う回数が増えれば手荒れが避けられない。  手荒れは界面活性剤がもつ「細胞傷害性」による。  界面活性剤は脂にとりつき剥ぎ取る機能が大きいが、手洗いでは皮膚の表面にある脂肪も取り去ってしまうため、頻繁な手洗いを続けると皮膚がガサガサになる手荒れが起こってしまう。新型コロナウイルス感染症に直面する医療従事者にとって、これは大きな悩みに違いない。  では、医療現場ではどれくらいの頻度で手洗いをし、どれくらいの手荒れが出ているのだろう。  その調査研究が3年前の2017年に行われていた。  それは、北九州市の小倉記念病院感染管理部、NPO法人・北九州地域感染制御ティーム、産業医科大学病院感染症制御部、シャボン玉石けん、そしてシャボン玉石けん感染症対策研究センターが行ったもので、その成果は感染症の医学誌『INFECTION CONTROL』(2017 Vol.26 の12)に、『無添加脂肪酸カリウムを用いた手荒いせっけんの手荒れ予防に関する調査研究』として投稿された。  調査対象者は、急性期病院(3施設)の110名、療養型病院(5施設)の197名、高齢者施設(5施設)の125名で、調査票の回収率は90%以上だった。  この調査研究は、擦式アルコール製剤の使用のみならず流水と石けんによる頻回の手洗いが手荒れの原因であり、また手荒れが感染の温床にもなるという前提のもと、「石けんの工夫が重要だ」として実施した、と投稿論文は記している。  調査でわかった手洗い回数は、おおむね11〜20回が4割を占めており、31回以上手洗いを行っている人も13〜14%あった。そしておよそ7割の人が「とても手荒れしている」「やや手荒れしている」と回答。  だが、合成系のハンドソープに代わって、自然素材無添加石けん(手洗いせっけんバブルガード)を使いはじめたところ、手荒れは約5割に減少したのだ。「自然素材無添加石けん」は合成系ハンドソープより肌にやさしいことが立証されたのだ。  私の知人である医療関係者も、長年、頻繁な手洗いによる手荒れに悩まされており、ワセリンの塗布が欠かせなかったそうだが、「手洗いせっけんバブルガード」に変えたところ、まったく手荒れが起こらなくなったと話していた。  新型コロナウイルス感染症の予防のため一般の方も石けんによる手洗い頻度が増えているので、こういう調査研究のあることは覚えておきたい。 次ページは:5000年目の大発見 ---------------------------------------------------------------- 5000年目の大発見  マスクの入手難同様、手洗い石けんへの需要も大きくなっており、自然素材無添加石けんである「手洗いせっけんバブルガード」は品薄状態のようだ。今後の供給見通しはどうなのか?   「注文急増で生産は休日返上で拍車をかけているので問題ないんですが、調達している樹脂製ボトルと泡を出すためのポンプがネックなんです。それらの製造工場には注文が殺到しているそうで、我が社への入荷も遅れていることが品薄の原因なんです」(シャボン玉石けん、川原貴佳さん)  自然系の手洗い石けんを使おうにも使えないのでは困る。  川原さんは、シャボン玉石けんの製品にはすべて「手洗いせっけんバブルガード」と同じオレイン酸カリウムや類似成分のオレイン酸ナトリウムが含まれているため、無添加ボディソープ、ベビーソープ、浴用石けん、ビューティーソープなどを手洗いに使っても「バブルガード」と近い効果が得られるという。  そうか、拙宅では入浴用に無添加ボディソープを使っている(ハンドタオルの洗濯に流用することもある)。「手洗い石けん」が底をついたあと、まだ入手難が続いていればこれで代用することにした。  ちなみに、自然素材(天然油脂)のみを原料とし、合成系の添加物を加えていない昔ながらの石けんを製造してきたメーカー(中小企業が主だが)は少なくない。今回の研究成果は、それらのメーカーにとっても朗報に違いない。  人類が石けんを使いはじめて5000年になる。  きわめて身近な人類の必需品の石けんに、5000年目にして思いがけないウイルス攻撃能力が明らかとなった。その研究成果が出た翌年、つまり2020年、人類は新型コロナウイルスの猛攻を受けることになった。  広島と北九州市という関門海峡を挟んだコラボチームは、あたかもこの非常事態を予感し、凶暴なウイルスを攻撃する手の内の一つを得たのかと思わせる研究成果だった。 山根 一眞(ノンフィクション作家) ●新型コロナウイルス「最前線の医師」が語った本音 5/2(土) 6:32配信 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200502-00625938-shincho-soci&p=1 新型コロナウイルス関連の報道では、数多くの医師がメディアに登場して、自身の知見を述べている。しかし、最前線で感染者たちと接している医師の話をじっくりと聞く機会は意外と少ない。実際にはその患者を診たことがない「専門家」(中には医師ではない者もいる)のオピニオンのほうが多く流布されている。現場からの声として紹介される多くは、治療現場の苦境といったところに限定されているようにもある。  そこで今回、ある総合病院で新型コロナウイルスを実際に診察し、また現場の統括もしているベテラン医師に匿名を条件で本音を語ってもらった。匿名にした理由は「特におかしなことを言ったつもりはありません。同じように考えている医師も多いと思います。でも、ただでさえ忙しいのに、病院あてに抗議などが来るとたまらないから勘弁してください」というものである。 ――お勤めの病院はどんな感じですか?   現状をお話しする前に、平時の病院、医療がどうだったかを少しご説明させてください。  もともと日本は国民皆保険ですし、東京は医療へのアクセスが極めてイージーになっていました。中学生までは医療費ゼロですし、救急車を呼んでもお金は請求されません。欧米なら数万円は確実に取られます。それゆえ、子供を昼間病院に連れて来られないというだけの理由で、救急外来を夜間に普段使いするような親までいたのです。  だからいつも病院が混雑していることが問題になっていました。一方で、開業医の先生を含めて医療機関側もそれで儲けていた、という面もあったことは否定できません。「どんどん来てください」とやって、医療費は国に負担してもらえばいいのですから。  ただ、新型コロナウイルスの影響で、普段は安易に病院に来ていた方が減ったので、全体としての患者数は減っています。  感染症や救急を担当していない病棟や医師はむしろ時間に余裕ができているようです。不要不急の手術も延期にしていますから。  1、2月に比べて3月の病院全体の収入は3割減というところでしょうか。病床の稼働率も10%ほど下がっています。  おそらくこれは開業医などでも同様でしょう。「売り上げ」が落ちて困っているところもあるだろうと思います。  一方で、私たち新型コロナの担当医たちだけは忙しくなっています。  うちの病院では新型コロナの診察を救急医が受け持つようにしています。その担当医らの仕事は、大雑把にいって1.5倍になっているという感じです。ただでさえ忙しかったところに、仕事が急増しました。  私が若い頃は救急を専門とする医師は月15日くらい当直というのが当たり前でしたが、さすがに今はそうはいかないので、当直は月6〜8日くらい。週休2日は確保できるようにして、休日出勤の際には代休も取るように、という方針でした。  これがさっき言ったように仕事量が増えているため、「当分、代休は取れません」という感じになっていて、実感としてかなりキツい日々が続いているのは事実です。  私自身は現場の診療の他に、病院全体の感染症対策等々の仕事が増えました。省力化できたことといえば、テレビ会議が増えたので結果として会議の時短などが進んだことでしょうか。 ――新型コロナに関しては、膨大な情報量が発信されています。この状況をどう見ますか?   SNSで誰もが発信できるようになったことで、不安をかきたてる情報が溢れすぎている、という印象はあります。  また地上波のテレビ、ワイドショーがセンセーショナルに伝える傾向があるのは良くないと思っています。たしかに政府の言う通りのことを流すのでは政府広報になってしまうので、良いことだとは言えません。  しかし、恐怖を煽って,今の対応が危険だと強調しすぎているように思います。  現政権が嫌いなのかもしれませんが、それと医学の問題は別です。  現在の政府方針、専門家委員会の方針は、専門的な知見のある人たちが議論して打ち出したものであり、相応の合理的な判断だと現場の医師から見ても思います。  ですから煽られておかしな行動をとるのではなく、とにかく今の対策を守ってもらわないと,収束できるものもできなくなると思います.  にわか専門家のコメントが全部間違っているとは言いませんが、大事なことをうまく伝えられていないと感じます。自称専門家はもちろん、芸能人の方などの不用意な発言でも、視聴者は扇動されます。  外国の例を簡単に紹介するのも問題です。「海外ではこうだ」というのですが、それぞれの国によって医療レベル、保険制度、国民性、文化など異なる背景があります。だから安易に「あそこがいい」「ここがいい」という話ではありません。 「アフリカの〇〇ではこうだ」と言われても、その国は常に様々な感染症の脅威が存在する国かもしれません。その国の政策を参考にする、といっても無理があるのではないでしょうか。 ――「何もしないと42万人が死ぬ」というシミュレーションも恐怖を煽っていたのではないでしょうか?   あれはあくまでも「何も対策を講じなければ」という前提で、最悪の事態を示したのですから、「ステイホーム」を訴えるという点では良いのではないでしょうか。 「エアロゾル」感染といった言葉が独り歩きしたせいで、ちょっと勘違いがあるように思うのですが、基本的には空気感染ではなく接触・飛沫感染です。だからちょっと話をした程度であれば、問題はない。  空気感染だと思うと「じゃあ空気がいいところなら大丈夫」という勘違いが生まれます。ここが心配です。  たとえば「空気がいい」ゴルフ場に行く、公園でジョギングをする、というのは問題ないように思っている方もいるでしょう。  たしかにゴルフ場でプレーするだけなら感染はしないでしょう。しかし、その前後に外食をしないでしょうか。ジョギングの最中に無意識にガードレールを触って、その手で顔を触り……となっていないでしょうか。  そういうリスクがあるからこそ、「ステイホーム」と呼び掛けているわけです。あくまでも個人的な、そしていささか楽観的な見方ですが、きちんと自粛をしていれば、あと1、2カ月のうちには良い状態が来るのではないか、と思っています。 ――そうした報道に煽られて、検査や診察を求める患者さんが殺到していて、かえって病院が困っているとも聞きますが、どうなんでしょう?   確かに、必要とは思えない患者さんが検査を求めてくる事例はあります。直接こちらの病院には来なくても、かかりつけ医から紹介状をもらってきて、検査を求めるケースです。そういう人の中で検査を断られた人が、SNSやテレビで「検査も受けられない」と主張することもあるのでしょう。  ただ、この間、数多くの新型コロナウイルス感染者を診てきた者として言えるのは、「この人は陽性だな」と思う人は検査に回さなくても、ほぼわかる、ということです。あくまでもその診断を確定させるために回すのです。病歴を聞き、問診をして、CTを撮り……といった診察の過程でかなりの確率でわかります。  ところが、そうした経験のないお医者さんが、患者さんに強く言われたとか、あるいは患者さんサービスの一環で検査を求めるとどうなるか。結果として、本当に早く確定して欲しい人の検査スピードが遅くなります。  これが問題です。 ――テレビに出ている「専門家」の強い主張の一つが、「とにかくPCR検査を増やすべき」というものでした。これはどうなのでしょう?   これは絶対に間違いです。少しでも専門知識がある人は、全くこれを望んでいません。  他国と日本が違うのはこの点で,本当に医師が疑った例にのみ検査をやっている点で感染の広がりをコントロールできていることは確実です。  とはいえ確かに検査のスピードは遅かったから、そこは今改善を進めています。  ただし、誰彼構わず検査をオーダーできるような状況を作らなかったことは100%正しかったと考えています。  日本のように国民皆保険の国で、なおかつ感染症に詳しくない町のクリニックのようなところまでもが、自由にPCR検査をできるような環境を作っていたら、間違いなく院内感染が多発していたでしょう。おそらくニューヨークやイタリアの比でない状況になったと思います。 「かかりつけ医」に相談することは否定しません。しかし、そこに多くの人が押し寄せたら結局クラスターを発生させかねません。そういう状況を作らなかった点では、当初、検査を絞ったことは決して批判されるようなことではないのです。  現在報告されている院内感染にしても、慣れてない人が普段使わないような感染防御具を適切でない使用をしたがために他の人や患者に感染させる例があとを絶ちません。  ドライブスルーでのPCR検査を増やせ、という意見についても、乱暴に思います。病院外での検査体制は進めたほうがいいでしょうが、やり方を間違えるとかえって感染者を増やすことにもなりかねません。  別の観点から補足させてください。  毎年のインフルエンザの流行の仕組みをご存じでしょうか。  PCR検査が注目されることで「偽陽性」「偽陰性」といった言葉もよく目にされるようになったと思います。前者は「本当は陰性なのに陽性と出ること」で後者は「本当は陽性なのに陰性と出ること」ですね。  実はインフルエンザの検査でも「偽陽性」「偽陰性」は一定の確率で発生します。日本では「インフルエンザかな?」となったらまず病院に行って、検査をしてもらって、タミフルを飲んで、ということが当たり前に思われている方が多いかと思います。  でも実は、こんなことをしている国はそんなに多くありません。一つには先ほどから言っているように、医療費が高い国では、そのたびに大変な料金が発生するので、いちいち検査しない、という人が多いのです。また、タミフルは病気を治す薬というよりは、よくなるまでの期間を短くする(7日が5日半になる)という性質のものです。  アメリカならば、この検査とタミフルだけで下手をすると500ドルはかかるでしょう。だから多くの人は「家で寝て回復を待つ」のです。私もそうしています。  ところが日本は医療費が安いことに加えて、「休むなら証明書を出せ」という習わしが学校や企業にあるので、こぞって病院に来て検査を求めるわけです。  問題は、インフルエンザの簡易キットの感度は7割から8割なので、2〜3割の人は本当は陽性なのに「陰性」という結果になります。  その人たちは、病院のお墨付きをもらったということで、自由に動き回りますから、コミュニティの中で感染を広げます。実は、これが毎年のインフルエンザの流行の大きな原因なのです。今回のことを教訓に、「インフルの証明書がないと休めない」といったおかしな慣習はなくしてほしいものです。何にせよ具合の悪い人は休むべきです。結果としてそのほうが学校や職場のためにもなります。  そして、今年、インフルエンザがあまり流行していないのは、多くの人が手洗い、うがいをして、なおかつちょっとでも具合が悪ければ、自ら行動を抑えるようにしたからです。その結果、「実はインフル」の人が感染を広めなかったわけです。  話をPCR検査に戻せば、検査の無闇な拡充に反対している人たちが怖れているのは、インフル同様に、「お墨付きを得た、でも本当は陽性です」という人が感染を広めることにつながりかねないからです。  よく韓国やイタリアのほうが日本よりも検査数が多い、といって日本を批判する人がいるのですが、これは話がまったく逆です。韓国やイタリアは最初に検査数を増やし過ぎたために、感染を広めてしまったのです。 「医療資源が無限にあり」「偽陽性の人でも全員どこかにちゃんと収容できて」「(偽)陰性の人が行動を慎んで他人にうつさないようにする」という前提がすべてそろっていれば、検査数をどんどん増やすのもいいでしょう。  しかし、そもそも検査はそんなに簡単なものではありません。検査というのは少なくとも検体を取る人と、検体を検査する人の両者がいてはじめて検査ができるのです。仮に医師会の先生たちが頑張って検体をたくさん出しても、検査する人が増えなければ結果が出るのがより遅くなってしまいます。本当に必要な検査が滞るのです。  もしも「やる気になればできる」と言い張る方がいるのなら、ぜひそういう人材がどこにまだ眠っているのかを教えていただきたいものです。  検査の技術の習得は一朝一夕にはできません。だから長期的な観点では、もっと日本はこういう検査もスピーディにできるようになればいい、と言われれば「その通りです」と答えます。  しかし、今まさに感染爆発を防ごうとしている時期に実現不可能なことを言っても仕方がありません。  テレビに出ている中でも、自称「専門家」ではなくて、本物の専門家の先生方もいらっしゃいます。そうした方に、「日本のPCR検査数は少ないのでは」とか「より検査体制を充実させられるといいのでは」と問えば、「そうですね」と答えるでしょう。それ以外の答えをしようがありません。  しかし、それで「それみろ、やっぱりPCR検査が足りないんだ」と言い張るのはやめてください。  繰り返しますが、現場で本当にこの病気を診ている医者で、もっと検査数を増やせ、などと言っている人はいないはずです。 ――ではなぜお医者さんの中で「PCR検査を増やせ」という声が根強いのでしょうか?   例年、この時期はインフルエンザの患者さんで病院、特に開業医さんは混み合うのです。経営のことを考えると患者さんがたくさん来るのは悪いことではないと考える先生もいるでしょう。今年はインフルエンザ自体が流行していませんし、万が一新型コロナウィルスに感染している患者に検査をすれば、感染のリスクがあるためほとんど行われていません。現在、新型コロナの診察はあまりやっていないでしょうが、一部の人にとっては「検査は怖いから検査センターにお願いするとして、診察は引き受けたい」といったモチベーションがあるかもしれません。  そういう人にとっては、かりに「PCR検査センター」のようなものが出来れば、都合が良いかも……というのは穿った見方でしょうか。 ――「WHO」の関係者と名乗る方、ノーベル賞受賞者の方もPCR検査を増やすように主張していますが。  海外にいて、どのくらい日本の事情をご存じなのかわかりません。また、たとえノーベル賞を受賞された素晴らしい先生方であっても、必ずしも感染症やこの病気の専門家ではないので、仰ることがすべて正しいとはいえないと思っています。  医学はそれぞれの科や専攻の専門性が高い分野なので、たとえノーベル賞受賞者であっても、専門外のことには確証を持って発言していないのではと感じることもあります。  なお、「検査、検査、検査」というWHOの事務局長の発言もいまだに曲解されている方がいます。あれはあくまでも発展途上国などで検査を軽視している国に対してのメッセージであって、日本などを念頭に置いているわけではありません。 ――ただ、検査をまったくしないと不安だという気持ちもよくわかります。「37.5度が4日間続くまで様子を見る」と言われても、その間に急激に悪化したら……と不安になるのでは。  気持ちはよくわかるのですが、熱だけが兆候とは限りませんし、本当に具合が悪くなったら救急車を呼ぶほうがいいと思います。新型コロナ以外でも、いろいろな病気がありえるのですから、本当に具合が悪い時はそうするべきでしょう。  また、これからは「陽性だけれども症状がない」という方はホテルなどに入ることになりました。このメリットは単に隔離されるというだけではなくて、そこには医療スタッフが必ずいるということです。症状が悪化した場合には、そのスタッフが対応します。  このところ脚光を浴びているのが血中酸素濃度を測って患者さんの状態を観察するというやり方です。入院患者や経過観察の対象の方の濃度をチェックするのは意味があるでしょう。ちなみに、その際に用いるパルスオキシメーターを発明した青柳卓雄さんが、先月亡くなられました。コロナの報道に紛れてしまい、あまり大きくニュースでは扱われませんでしたが、世界に誇るべき日本発の医療技術であることは知っておいていただきたいと思います。 ――死者数や感染者数を見るとインフルエンザと大差ない、いやインフルのほうが深刻だ、といった意見についてはどうお考えですか。   たしかにウイルス自体の病原性や感染力は同等だと思います。空気感染はしないので、結核と比べると感染力は弱いともいえます。  ただ、高齢者や合併症のある人への進行度合いは半端ではありません。日本は医療レベルが高いので、余り若年者は死んでいませんし、今後もそうでしょうが、感染した高齢者の一定数は救いようがないままに亡くなります。  実際に診察しての実感を一言でいえば、「この病気はヤバい」です。  多くのウイルス性肺炎は、自身の持つ免疫力で打ち克つことができます。  新型コロナウイルスは、若い人と比べて高齢者が重症化しやすいことはよく知られていますが、では両者の違いは何か、といえば免疫力になります。肺炎が重症化しても、踏ん張っているうちに回復に向かえる。だからICUやECMOで治療をして、「もうちょっと頑張れる」ようにするのです。しかし、その間にダメージを回復できなければ最悪の場合、亡くなることになります。  少なくとも私の病院では、例年、インフルで亡くなる人はまずいません。それまでにちゃんと治療をして、回復してもらっているからです。しかし今回は、すでに何人もの方が亡くなっています。だから「ヤバい」と感じるのです。 ――世界的に見た場合、日本は死者数、重症者数が少ないのはなぜでしょうか。これを政府の陰謀のように言う方もいますが。  実際に少ないと思います。それはいろんな理由が考えられるでしょう。  まず衛生観念が高い、といったことがよく指摘されます。清潔な水が近くにある、靴を履いたまま家に上がらない、とか。そういうこともあるかもしれません。  また、繰り返しお話ししているように、医療レベルの高さ、アクセスのしやすさは大きいと思います。  多数の死者を出したアメリカでは、救急車を呼ぶのにも、病院にかかるのにもかなりのお金がかかります。そうすると、具合が悪くても病院に行かない、行けないといった人は一定数出てしまいます。今回亡くなった多くの人が貧困層だというのはそういうことでしょう。「日本でもタライ回しがあるじゃないか」と言われるかもしれません。確かにそういう問題は解消されていません。  しかし、たとえば東京都では救急医療について「東京ルール」というものを10年前に定めています。「5つの病院に断られた」「30分以上搬送先が見つからない」といった場合には、東京都が定めた地域救急センターに搬送する、というルールです。他の自治体でも様々な取り組みが進められていると聞きます。「日本はダメだ」と言うのは自由ですが、他の国と比べて決して引けを取るようなシステムにはなっていないと思っています。 「BCGが有効」という説も聞きますが、これはまだよくわかりません。そういうこともわかればいいとは思いますが、少なくともそれは現場の私たちが判断できることではないのです。  なお、「検査数が少ないから死亡者が目に見えていないだけ」といった主張は完全に陰謀論の類です。たとえば別の肺炎死だとか、謎の死者が急に激増しているというのであれば、そういう仮説も立てられるのでしょうが、そんなことはまったく起きていません。 ――最前線にいる立場で、メディアや一般の人に言いたいことなどはなんですか。必要な支援はありますか?   私たち医療従事者はいま別にお金が欲しくて働いているわけではなく、使命感で働いています。  相当なストレスを抱えながら、普段以上に働いています。実際の担当ではない医師や看護師にも大きな影響を与えています。  たとえば、陽性だけれども症状がない、といった患者さんを専門外の個室に入れることがあります。するとそこの看護師さんは慣れないながらも感染者の面倒を見て、しかもそれが他の患者さんにうつらないようにしなければならない。普段とはまったく異なるプレッシャーがかかっていて、精神的に追い詰められている関係者は数多くいます。  私も今は家に帰れる日は限られていて、あとは病院が用意したホテルに宿泊するようにしています。  また、精神的に追い詰められた職員らのための対策も考えなくてはならない状況です。最初に病院全体の患者数は減ったとは言いましたが、対応をしている病院のスタッフは本当に大変なのです。  最近は家庭内感染が増えてきましたが、最初の頃は「夜のお店」近辺の感染者が非常に多くいました。  そんな状況下で、テレビのニュースを見ると「自粛で大変。補償してほしい」といった「夜のお店」の声を紹介しています。もちろん当事者の方々が大変なこと、そういう感情を持つことは理解できます。でも、毎日ギリギリのところでやっている身からすれば「いま補償の話なの?」という違和感を抱いてしまったのも正直なところです。「これから大変な戦いが予想されるのに、もうお金の話? それもごく一部の業界の? 議論の優先順位がおかしいのでは」と感じました。  どうか私たち現場の人間が日々、頑張っていることをご理解ください。そうしたお気持ちを持つ方が多いことは励みになります。医療従事者へのエールは素直にうれしく思います。  そして、早くこのような状況を終わらせるためにも、とにかく皆さんは感染しないように、感染を広げないようにふるまっていただきたい。これは強く訴えたいことです。  接触・飛沫感染に注意せよと言われても、具体的に何が大丈夫で何がダメか、わかりにくいことと思います。実際にその細かい線引きはできません。だからこそ「極力人との接触を避ける」「極力外出しない」という大きな方針を打ち出しているのです。それを守ったうえで、手洗いを丁寧にマメに行ってください。  また、特にメディアの方にお願いしたいのは、善意や問題意識からなのでしょうが、常に「国(厚労省)や都のやっていることは間違いだ」といった論調の報道は考えていただきたいところです。  先ほども申し上げたように、日本のこれまでの対応は決して間違っていません。死者数を見れば明らかです。「世界が疑問視している」といった報道ばかりが目立ちますが、海外では日本を評価する報道も出ています。単にそれがあまり紹介されていないだけです。  死者数が少ないことをもっとポジティヴに捉える論調が増えてもいいのではないでしょうか。  私たちは国や都の定めた方針の中で動いており、それに背くことはありません。しかし、国も都も、いろいろと考えたうえで方針を打ち出しています。その決定過程には私たちも関与しています。  明らかに間違った方針が出れば、私たちも声をあげます。そういう判断ができないほど現場の医師たちは馬鹿ではないのです。 デイリー新潮編集部 2020年5月2日 掲載 新潮社 次ページは:「棘」を引き抜く